院長の独り言


私は平成8年3月に開業して今年で8年経ちました。その間色々な出来事がありました。
開業してから内視鏡件数は一万件以上になりました。
発見したがんの統計を見ていると後悔とともに思い出すことがあります。
早期がんは自覚症状が出ないうちに検査を受けていただかないと発見できません。

開業して半年くらいたってK薬品のF課長が挨拶に来ました。早期退職したとのことでした。
長年の親交があったので事務長にならないかと誘うと是非お願いしたいと間もなく就職が決まりました。
自宅が埼玉で通勤時間がかかることと、長年薬品卸問屋に直行していたので出勤は10時にお願いしたいと
いうので許可しました。しかし、勤めはじめて半年経つと出勤が11時過ぎになることが多く、
他の職員の手前どうしても注意しなければいけないと思うようになりました。

そこで昼食を一緒にしようと誘って近くの定食屋に行きました。
するとFは自分のお腹を指して最近腹が張るんですよという。
テーブルの前に座った彼の腹を見たら蛙のように膨らんでいた。
私は驚いてすぐ検査しようといって翌朝腹部超音波と内視鏡をおこないました。

まず腹部超音波で見ると何と腹水が溜まっているではありませんか。
驚いて内視鏡をおこなうと末期胃がんでした。幽門(胃の出口)が狭窄を起こしていました。
すぐ母校の日医大に入院させたのですが勿論手術不能です。手厚い治療で約1年生きました。
彼が就職してすぐ私は内視鏡検査を受けるようにすすめました。
ところが一向に検査の予約をしようとしませんでした。
実は後で分かったのですが彼は名うての検査嫌いでした。

亡くなってから数ヶ月して彼の上司が風邪を引いて受診しました。
上司の話ではFは入社以来一度も健診を受けたことがなかったそうです。
半年前に検査を受けてくれていたら助かったのにと悔しくてなりません。

誰でも自分の知友ががんで亡くなることは実に悲しいことです。
特に医師で内視鏡が専門である私のクリニックの事務長が検査を拒否して、
発見した時は転移性進行がんだったというのは何とも表現できないほど悲しい出来事です。
常日頃患者様に口酸っぱくなるほど早期検査の必要性を説いて受けていただいているのに
このような形で身内をがんで亡くすとは。

検査嫌いの患者様で思い出があります。
ご近所の60才の男性でした。食事が通らないとの訴えで来院されました。
内視鏡検査をすすめたのですが頑なに拒否されて薬だけ欲しいとおっしゃるので仕方なく胃炎の薬を処方しました。
1ヵ月後に再来されて、今度はいよいよ苦しくなったと訴えたのでどうにか検査を受けることに同意しました。
内視鏡検査では明らかな末期胃がんでした。手術も出来ないほどでした。
入院をすすめたのですが、玄米食で治すと聞きません。
さらに1ヶ月経ってどうにもならなくなりご自分で入院したいと希望されました。
入院後3ヶ月で亡くなりました。

日頃患者様に口癖のように医療を受けない人は都会にいながら無医村にいるのと同じだと言います。
日本は平均寿命と健康寿命ともに世界一です。
WHOの世界各国の医療の効率の評価では日本が世界第一位で位米国は32位です。
国民皆保険制度のおかげで日本国民がいかに効率良い医療を受けているかの証左です。
因みに内視鏡の費用は米国は日本の十倍です。
日本でこれだけ安い費用で内視鏡が受けれらるのですから皆受けるかと思えば、
検査が苦しいという先入感だけで拒否する方が多いと聞いています。
だから私は無痛内視鏡に拘るのです。
私のクリニックでは多くの健診ドック受診者が無痛内視鏡を受けています。
毎月200件を越える内視鏡(胃と大腸は半々)をおこなっていますが、その半数は健診ドックです。
当クリニックの健診ドックでバリウム検査は月間十数件で他と比べて極端に少ないです。
これも無痛内視鏡の評価が高まってきた証拠かなと一人で密かに喜んでいます。